バランタインファイネスト

現在流通しているスコッチウィスキーの9割がブレンディッドウィスキーと言われている。昨今、1980年代、90年代以降からシングルモルトの愛飲家の割合が増加し、世上でもてはやされているように見受けられる。しかし流通量から考えるに、シングルモルト蒸留所の主たる関心はブレンディッドウィスキーの「原酒」としてシングルモルトを生産することに注がれているのではないか、と思えてくる。

ブレンディッドウィスキーとは、大麦麦芽を原料としたモルトウィスキーと、大麦麦芽以外の穀物(トウモロコシ、ライ麦、小麦など)を原料の中心とするグレーンウィスキーを、独自の比率でブレンドしたものである。各個別の銘柄の長所を上手く引き立たせ、それぞれの強すぎる個性をマイルドにしながら、飲みやすく配合されている。

バランタイン社は、1895年にヴィクトリア女王より王室御用達をお墨付き得ている。そもそも、スコッチウィスキーは、スコットランドがイングランドへ統合されていく過程で、強化される酒類への課税政策に反発し、密造酒として別の酒樽に隠していた中であの琥珀色などの独特の色合いや、特徴ある味わいが得られるようになったものである。他のスコッチウィスキーメーカーにも王室御用達を得ていることろがあるが、密造酒の「末裔(?)」たるスコッチウィスキーが、かつて対立した歴史持つ当事者の英王室からお墨付きを得ているのだ。何とも愉快な話に思えてくる。


1910年にスコットランドのバランタイン社より発売された「バランタインファイネスト」は、最も有名なブレンディッドウィスキーの1つである。日本では、現在は700ml瓶のサントリー希望小売価格が1,390円(税別)、スーパーマーケット等の小売店では税込で1,000円前後の価格で購入できる。

金額が手頃であるが故に、バーで500円以上の価格でグラス売りされると、原価との比較の上でなんだか損した気分になってしまうかもしれない。筆者も店売りのショットを口にした記憶がない。(上記の写真が初めて?)しかし、この1瓶の中には、なかなか軽んじることができない魅力があふれているものである。


まずは、内容云々の前に、ボトルのキャップに工夫が凝らされていることを指摘したい。同程度価格帯の700mlウィスキーボトルだと、コスト面からかコルク栓のものはあまり見られず、アルミキャップが多い。アルミキャップでは、経年と共にどうしても水分の蒸発が進みやすい。

バランタインファイネストでは、ボトルキャップの裏側に、プラスチック素材を取り付けており、瓶とキャップの、密閉度を高めて、水分蒸発を抑えている。コルク栓には及ばないものの、一定期間は品質劣化が抑えられるのではないか。

味わいの話に移る。バランタインの各銘柄は、「ピート臭」がアクセントになっている。モルトウィスキー製造工程で麦芽を乾燥させる際には、木材やガスによる加熱などの他に、昔ながらの「ピート(泥炭)」が利用される場合がある。ピートは、コケ、シダ、海藻類が堆積してできた、炭化度合の浅い石炭であり、スコットランド北部の原野でみられるものだ。切り出して乾燥させて上で燃料として使われる。ピートを燃料として麦芽を乾燥させた際に付着する、それぞれの特徴ある「ピート臭」は時として「スモーキーフレーバー」と呼称されることがある。

バランタインファイネストを口にして最初に感じるのは、「ラフロイグ」を思わせる印象的な芳香である。ラフロイグのもつ、海藻類に由来する、ヨード臭に似た鮮烈なピート臭は、一口飲んだだけで好きな人と嫌いな人を分けてしまうものだと言われている。現在は、バランタインのマスターブレンダーの公式見解は、「ブレンド内容を明らかにせず」の立場なので、正確にラフロイグが使われているかは分からない。

しかし、バランタインファイネストの「ピート臭」はまず入り口での刺激は感じさせつつも、すぐに甘い香り、味わいが包み込み、人によっては不快に感じることのある感覚を大いに和らげてくれる。個々の尖った要素を決して孤立させず、それでいて全体の中に要素を受け入れて、かつ、活かしている、これは「包む」という表現が最もマッチしているだろう。この「甘い」ことについての表現について、バニラ、蜂蜜、チョコレートなどの食材の名前がしばしば使われている。

アルコール度数が高いウィスキーの敷居を下げ、ウィスキーの裾野を広げたソーダ割という飲み方、いわゆる「ハイボール」の貢献と存在を否定する気は毛頭ない。ただ、やはり本銘柄のお薦めは、無理のない範囲内で一度はストレート、ないしはロックで試してみることではないか。

手頃な価格帯のウィスキーが多く出回る時代になった中で、これだけ多くの要素を織り込んだ、複雑な味わいを感じさせてくれる銘柄はなかなか見当たらない。普段使われていなかった味覚、嗅覚を活性化させてくれる。新たな世界を発見してみるのは一興である。