上野精養軒のダブルコンソメスープ

本格フレンチレストランの名店・上野精養軒は、上野恩賜公園の中にある。

開業は明治5年(1872年)で、上野の地に開店したのは明治9年(1876年)、上野恩賜公園の開設時だった。

時代はいわゆる「鹿鳴館時代」で、明治政府は先進的であるとされた西欧文化を取り入れることで、日本を近代国家をたらしめんとしていた。上野精養軒は、そんな時代の空気の中で、日本に西欧料理を根付かせる役割を担ってきた老舗であり、当時からの伝統を引き継いでいる料理を現在も提供している。

ロビーのバルコニーからの眺めである。晴天に不忍池、弁天堂が映え、食事前の「オードブル」として心地よく心を弾ませてくれる。

上野精養軒の中でも、特に秀逸な一皿をご紹介したい。グリルフクシマで出される「ダブルコンソメスープ」である。

最初は、「おや、コースの途中に、突然紅茶なのか?」と感じたが。。。

コンソメとは、大手食品メーカーの「コンソメスープの素」や、菓子類の「コンソメ味」が一般に浸透しているせいで、ありふれたスープである印象が広まっている感がある。元々はフランス語で「完成された(consomme)」という意味である。通常は、肉類、魚類からとった出汁により、脂肪分が少ない肉類や野菜を煮立てて作られる。また澄んだ琥珀色の色合いを保つように、適宜アク取りを行う必要がある。

ダブルコンソメスープとは、コンソメスープの出汁をとる工程を2回かけ、作られる、非常に手間暇をかけた料理である。

飽食の時代である。多くの料理がそこそこ美味しく、そこそこ食べることができるように作られ、提供される。筆者は料理の専門家ではないが、深い印象が残り、感動を覚える味とは、味覚の中で普段使われていない神経が覚醒し、にわかに知覚と感覚により捉えている外界が拡がる、そんな体験をさせてくれる味だと考えている。

このダブルコンソメスープは、コース料理の場合、前半に出されるものである。食することで大いに自身を活性化してくれるが、具材が入っているわけではないため、決して満腹にはならない。むしろ食することで、以後の料理を「活性化された」状態となり味わうことができる。コース料理としてはしばしば耳にすることとはいえ、改めてコース料理の意味を鮮烈に「味わう」ことができた。

椀盛は「日本料理の華」と言われる。同様に、コンソメスープは「フランス料理の真髄」と呼ばれる。そのことを改めて心に刻んでくれる一品であった。

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